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こんにちは。電子スピン班班長の齊藤です。
4月も中旬になり、新生活が本格的に始まりましたね。
まだまだ三寒四温を感じる季節ですが、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
今週は電子スピン班から、明日からデカい顔して語れる物理をお送りしたいと思います。
テーマは「対称性とトポロジー」です。
Physics Lab.2017で電子スピンが展示する内容の一つに、「古典スピン系」があります。
これは、スピン同士に働く相互作用の効果で、配列されたスピンが特徴的な振る舞いをするというものです。
業界用語を出すと、Ising模型、XY模型におけるBKT転移、DM相互作用を取り込んで生じるskyrmion、です。
ちょっと何を言っているかわからない、という人のために、統計力学の補足説明をします(知っている人は読み飛ばしていただいて構いません)。
統計力学では、系(*1)のハミルトニアン(*2)によって、ある状態の実現する確率が分かる、と主張します。
確率Pはに比例します。大事なのは、エネルギーが小さいほど確率が高い、という点です。
古典スピン系のハミルトニアンと、ある状態が実現する確率は、スピンを使って、のように書け、この値を小さくするようにスピンの向きが決まります。
ただ、確率は温度にも依存するので、ある温度(転移温度)よりも低温か高温かで実現する状態が異なる場合があります。
大雑把には、温度が高いとエネルギーの違いによる効果が薄まるので、スピンはバラバラになります(このことはエントロピーを計算することでも言えます)。
さて、ここで「バラバラ」とはどういうことか考えてみましょう。
熱力学的には、エントロピー(*3)が大きいという言い方になります。
これを、対称性という観点から見ることもできます。
バラバラの反対は「揃っている」ですね。揃っているとは、つまりある種の対称性が破れているということ。
これは、下の絵を見てもらえば分かると思います。
左側は、矢印が上向きに揃っていて、明らかにこの方向だけ他の方向と違いますね。一方、右側は特にどの方向が特別ということもありません。
一般に対称性は、ある操作を施しても変わらない、というような操作によって定義されます。
上の絵の場合は、回転という操作に対する対称性の問題でした。次の絵は、先ほどの絵を時計回りに90度回転させたものです。
めっちゃ速く見比べて見てください。左は回転によって大きく変わっているのが分かります。
対称性が破れる、とは操作に対して不変でなくなる、すなわち系が指向性を持つということです。
何らかのパラメータを変化させていって対称性が破れた時、今まで現れていなかった性質が現れます。これを「相転移」と言います。
紙面の都合上、XY模型に話を絞ります。
XY模型はスピンが単位円上の任意の値を取れるのですが、これは2次元の回転に対して対称性を持つと言えます。
このような系では、スピンの配置の次数が2次元以下の場合、対称性の破れによる転移が生じないことが示されています。
そのため、XY模型では相転移が生じないものと思われていたのですが、実は違うタイプの相転移が生じると主張したのが、昨年のノーベル物理学賞に輝いたThoulessらです。
詳細は省きますが、転移温度以上では(仮想的な)欠陥をスピンが渦状に取り囲むような状態が安定となり、転移温度以下ではそのような渦が生じ得ないことが言えます。
さらに、この渦は連続的な(*4)変形によって渦でない状態に変えることができません。
このように「空間に穴があるか、無いか」を数学的に取り扱うのが「位相幾何学」という分野で、ホモトピーや代数ホモロジーという手法を駆使します。
物理の人は、これらをまとめてトポロジーと呼んでいます。
当初の予定よりもずいぶんたくさん書いてしまいました。
僕の嗜好の都合上、分かりにくく理屈っぽい説明になってしまったかもしれません。
知恵熱が出た人は、おでこに冷えピタ貼って、上に書いたことはとっとと忘れましょう。
ではでは、当日お会いできるのを心待ちにしております(_ _)
P.S.
twitterでは、電子スピン班の前回記事のskyrmionに対して反響が大きかったようですが、本物を見るのはあまりに大掛かり設備が必要なので、XY模型共々今回は計算機上でお見せします。ご了承ください。
>注釈
*1 考えている物理的対象のこと
*2 系のエネルギー(の意味を持つ演算子)
*3 で定められる量で、乱雑さの意味を持つ
*4 滑らかに、くらいの意味で捉えればよい