PhysicsLab. 2017 Blog

東京大学理学部物理学科有志による、第90回五月祭企画「PhysicsLab.2017」のブログです。準備の様子や各班の内容を紹介していきます。

100年前のある発見について

こんばんは。宇宙班の班長の佐藤です。
最近、結膜炎になってしまって大変です。けっこう落ち込んでいます。

さて、宇宙班はミューオンという宇宙線の観察実験をしていますが、今回はそもそも宇宙線なんていうものがいつ頃から人類に認知されてきたのかという歴史的な話をしてみましょう。
宇宙線ってなんやねんという方は、前回の記事であるこれ

ut-physlab.hatenablog.jp


を読んでみてください!一生懸命、説明していますので。

ではでは始めます……
 
※ここからしばらくは前提となる知識の説明が長くてうっとうしいかもしれません。
「ただでさえ時間がないなか、読んでやっているんだぞ」という忙しい方は、アンダーラインの場所だけ読んで、後半に向かってください。
 

突然ですが、みなさんははく検電器というシロモノをご存知でしょうか。知らないと思います。これがけっこう大事な話なので、説明します!
金属の小さくて薄いペラペラ(金属はく)が二枚だけ先端についた金属棒を、金属のふたがついている瓶の中に吊るします。つるし方は、はくが付いていない方の金属棒の端をふたにくっつけるだけです。こうしてできあがったのがはく検電器です。これだけです。
要はびんのなかに金属のぴらぴらが二枚ぶら下がってるだけです。
まわりくどい説明をするより見せたほうが早いとぼくも思うのですが、画像掲載の仕方がわからないので、いまこれを読んでいるスマホかパソコンで調べてみてください。いやはや、手間をかけさせて申し訳ありません。

気になるのは、このはく検電器はなにに使うのかということです。その前に少し電気の説明をします。

電気にはプラスとマイナスの二種類があります。それに伴い、電気を帯びた物質(電荷)も、その帯びている電気がプラスなのかマイナスなのかで二種類に分類できます。プラスの物質を正電荷、マイナスの物質を負電荷と言います。
想像がつくと思いますが、プラスを帯びた物質(正電荷)同士やマイナスを帯びた物質(負電荷)同士は反発しあい、正電荷負電荷は引き合います。電気や磁力によって物質にはたらく効果を「電磁相互作用」なんて呼びますが、反発したり引き合ったりというのは電磁相互作用の一部なのです。

さて、はく検電器に戻りましょう。はく検電器に正電荷だけを与えると、金属のぴらぴらにも正電荷だけが新たにたまっていきます。片方のぴらぴらにたまった正電荷は、もう一方のぴらぴらの正電荷と反発して、ぴらぴら同士が互いに離れます。

   ぴら ぴら  →[正電荷をたくさん与える]→   ++ぴら++       ++ぴら++

ということです。ちょっとこの図は意味がわかりづらいですが、ナンセンスで面白いので掲載しておきます。
はく検電器は要するに、電気の相互作用を目に見えるかたちにしてくれるのです。大切なことは、はく検電器に正か負かの電荷どちらかだけを送り込むと、ぴらぴらが離れるということです。
 
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ではでは、ミューオンの話に戻ります!
100年前、このはく検電器で実験をしている人がいました。
――実験をしていたのかは定かではないので、もしかしたら遊んでいたのかもしれませんね。ぴらぴらを眺めながら、「あ~正電荷同士が反発してる~」とか「ぴらぴらがひらいた~」とか言って遊ぶのでしょうか。非常に勝手な推測ですが、昔は今ほど娯楽もなかったのでしょう。ですから、ぴらぴらを眺めているのはとても高級で洒脱な暇つぶしだったのではないでしょうか。「今日、ぴらぴらで遊ばない?」なんて。これはさすがに適当を言いすぎですかね。冗談ですよ。まあ、おそらく実験していたのでしょう――
その人は正電荷をはく検電器にためて、ぴらぴらが離れている状態にし、それを放置しておいたのです。すると、どうしたことでしょうか。少し長い時間が経つと、ぴらぴらの離れ具合が減少しているのです。あれれ、昨日より近づいていないか?という具合に。時間がたてばたつほど、ぴらぴらは互いの距離を詰めていきます。

すこしちゃんと考えてみましょう。ぴらぴら同士が近づくとはどういうことでしょうか。
ぴらぴらの位置が変わったのですから、ぴらぴらにかかる力になにか変化があったのでしょう。
ぴらぴらにかかる力は、重力と電気の力の二種類しかありません。風などからも、びんに守られています。
重力は変化しないでしょうから、電気の力の大きさが変化したということでしょう。
ぴらぴらにかかる電気の力の大きさは、「ぴらぴらにたまっている電気の量」と「ぴらぴら同士の距離」で決まります。
いまは、力の大きさが変化することで初めて距離が変わったのだと考えていますから、今回の力の大きさの変化は「距離の変化」に起因するのでなく、「電気の量の変化」に起因しているはずです。

すなわち
ぴらぴらにたまっていた正電荷がどこかへ行ったorぴらぴらに負の電荷がやってきて正電荷と相殺した
というわけです。

でもどうしてそんなことが起こるのか。実は、昔の人たちはこの疑問についてはあまり悩みませんでした。彼らは、空気中で正電荷負電荷がつくりだされることを知っていたからです。
地球の地面や建物の材料からは、ガンマ線など、少しだけ高いエネルギーをもつものが常に微妙に放出されています。これらは自然放射線の一種です。こういった自然放射線によって、空気中の原子はプラスとマイナスとに切り離される――電気的に分離するということでこれを「電離」と呼びます――ことがあるのです。勢いの良いビームによって、原子中の電子が飛んでいくイメージでよいです。これを昔の人たちは知っていましたから、はく検電器の件についてはそんなに驚愕というわけではなかったでしょう。
 
 
地面からでる放射線のせいで空気中には電荷が存在している。ぴらぴらにたまっている電荷が、空気中の電荷と反応して相殺してしまった。だからぴらぴらはだんだん近づいていく。」
こういった結論をだしました。なるほどなるほどという感じです。

さて、歴史が動いていくのはここからです。すいません、お待たせして。
このはく検電器の現象に興味を示した人が、海の上やエッフェル塔の頂上(!)にはく検電器を持って行って、同じ実験をやってみたのです。ぴらぴら同士を離れさせて、放置。そしてどうなるか。
地面から出る放射線が、ぴらぴら接近のもともとの原因でしたから、エッフェル塔の頂上なんてところに行けば、接近具合は減少するのではないかと予測できます。高度があがればあがるほど、空気の電離レベルは下がり、はく検電器の電荷は消費されない。
ところが、実験結果は正反対でした。より高い場所では、ぴらぴらはより早く、接近するのです。すなわち、空気の電離レベルは高度上昇に伴って上昇する。えらいことです。
 
 
昔の人は言ったかもしれません。
「上空の空気のほうが電離している!?これじゃあ、まるで勢いのあるビームが空から降ってきているみたいじゃないか!」

空から降ってくる謎のエネルギー。そう、これがまさに宇宙線発見の瞬間でした。

それからたくさんの研究がなされ、宇宙線実験によりたくさんの素粒子が見つかったり、素粒子反応が突き止められたりしました。現在の素粒子論発展の礎は、100年前の宇宙線発見なのです。
 
さてさて、続きは当日にお話ししましょう。ぼくは寝ます。おやすみなさい。
あしたは起きたら眼科に行きます。